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ベルギーコラム

Vol.13 歴史とポップな現代が交差するゲント

宮崎真紀

ベルギー在住、フードジャーナリスト及び衣食住に関するコーディネーター。食の世界の生活情報誌「ボナペティ」編集長。他に、国立料理学校でのフランス料理、フラワーアレンジ、ベルギーボビンレースの教室を主催する。

ベルギー観光の花形はブリュッセル、ブルージュそしてゲントである。いずれの街も豊富な歴史に彩られ魅力溢れるところだ。
1千年以上もの歴史を誇るブリュッセルと北のベニスと称されるブルージュ。ではゲントはどうだろう?

ゲント生まれのスペイン王カルロス一世(=神聖ローマ帝国皇帝カール五世)

1500年2月24日、ゲントで男の子が産声を上げた。後のスペイン王となるハプスブルグ家の王子の誕生である。カールと名付けられた少年は、才媛の誉れ高い、優しい叔母マルガレータ大公妃の庇護のもと、ブラバントの小さな美しい町メッヘレンで帝王学を学び夢多い少年時代を過ごした。15歳でブルゴーニュ公国の君主、19歳には神聖ローマ帝国の皇帝となるが、メッヘレン時期がカールにとり最も楽しかったといわれる。
カールはその58年間の生涯を戦いに明け暮れたが、湯水のごとく使われた軍資金の出所が中世以来高級毛織物の交易で繁栄していたゲントであった。

往年の栄光

今回は観光案内書には載っていないお洒落でトレンドなゲントの顔をご紹介しましょう。現代のポップなエスプリを知るためには往時の繁栄ぶりを知ることも大切で、街の中心を流れるレイエ川に架かるサン・ミカエル橋に立つことをお勧めしたい。眼下に華麗なギルドハウスが広がり、橋からは尖塔を誇る3つの建物が一望に見渡せる見事なパノラマ。聖バーフ大聖堂、黄金の龍が輝く鐘楼、そしてサン・ニクラース教会の威厳ある風景は当時のゲントの底力を明白に物語っている。

橋から徒歩5分にある大聖堂内の祭壇画「神秘の子羊」は必見。中世の傑作ファン・アイク兄弟作「神秘の子羊」は、ミシュラン的にいえば回り道をしても“見る価値あり”だ。この絵には波乱に満ちたエピソードがある。16世紀の聖像破壊には耐えたが、ナポレオン支配下のフランスに略奪され、その後ナチス・ドイツの手に渡り、オーストリアの岩山に隠されていた時は危うく爆破されるところだった。50年前ゲントに戻るが、1934年祭壇画の一部が盗難にあい現在はコピーがかかっている。以来門外不出となった。

往年の栄光

ゲント人は、時代の動きを読む才能と画期的なアイデアで時の流れをつくることに秀でていたが、この「気質」は脈々と受け継げられているようだ。

例えばゲント出身のアールヌーボーの巨匠ビクトル・オルタである。オルタはゲントにわずか3軒の家を建てただけにもかかわらず、師の大建築家アルフォンス・バラはブリュッセルのサンカントネール公園内の展示館設計を任せるという大抜擢をした。オルタの影響でゲントには著名な建築家が建てたアールヌーボー様式の家々がたくさんあるが、特に国鉄駅近くの2つの大通りには目をみはるほどの数で建ち並んでいる。(Koningin ElisabethlaanとKoningin Astridlaan)。このことはベルギー人でも知る人は少ない。

グルメ

アートや食に関しても同じ様なことがいえる。聖バーフ大聖堂のそばにあるショコラティエ(L.Van Hoorebeke)はレトロな感じの包装紙と美味しさで人気があるし、北海から運河を利用して運ばれた新鮮な魚を使ったのが始まりといわれる、ダシのよく利いた「ゲント風魚のシチュー(Waterzoi à la Gantoise)」は日本人好みの味だ。またパブ「Dulle Griet」に置いてあるクリークビール(krick)は50センチもある長いグラスに注がれ、背の高い木の枠ごとサービスされる。その昔、騎士が馬の上でも飲めるようにと工夫された木枠をつかんで飲むわけだ。但しこのビールを注文すると靴の片方が質に取られる。グラスの盗難防止で、支払いを済ませると返してくれるのでご安心を。

デザートは「Max」のブリュッセル・ゴーフルといきたい。首都の名を取ってブリュセルと称したが、サクサク、カリッとしたワッフルはマックスが元祖である。

またアート・ギャラリー「Uit Steppe&Oase」の天気の良い週末のみオープンする中庭のカフェも素敵だ。アールヌーボーのステンドグラスのドアを押せば、花や木に囲まれ静かなひと時が過ごせる。

モードや雑貨

ファッションでは、ゲント出身のデザイナーであるエヴァ・ボス女史(Eva Bos)が抜群!独特の色使いとスタイリッシュなデザインで世界の檜舞台で活躍中である。また「Double Face」創作のシンプル&優雅なウエディングドレスには息をのむ美しさがある。こんな花嫁姿を見た新郎はきっと花嫁に2度惚れすると思う。

上流階級ごひいき通り(Kalendeberg)は世界の有名ブランドと洒落たカフェやレストランが集まっている。が、近くにある通り(Serpenstraat)には違った楽しさがある。とんでもなく愉快な雑貨屋、セレクトショップ、創作陶器店などが狭い通りに肩を並べ、ゲント人のエスプリに触れられる。

ところで、この通りを散策して面白いことに気づいた。店の看板が「英語」か「フランス語」なのだ。なぜ面白いかというと、ベルギーの公用語は「フランス語」「フラマン語」「ドイツ語」だが、首都ブリュセルを除き、各地方は各々の言語を主張する。バリバリのフラマン語圏のゲントだが、昔から上流社会はフランス語の教育を受けた影響か、外国でほとんど通用しないフラマン語より英語やフランス語を使っているのだ。視野の広さ、またはその商魂(?)にさすがゲント人!と思った。

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