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ベルギーコラム

Vol.12 夢のクリエーター フォロン

宮崎真紀

ベルギー在住、フードジャーナリスト及び衣食住に関するコーディネーター。食の世界の生活情報誌「ボナペティ」編集長。他に、国立料理学校でのフランス料理、フラワーアレンジ、ベルギーボビンレースの教室を主催する。

ジャン・ミッシェル=フォロン(Jean-Michel Folon)は、水彩画、ポスター、版画、ステンドグラス、木製やブロンズの彫刻など、実に多方面で活躍した1934年生まれのベルギー人である。無名の彼を真っ先に高く評価したアメリカではもちろん、ヨーロッパ中にファンを持つ。彼の作品は、日本万博のベルギー館、その後東京や大阪でのフォロン展でも紹介されたので日本にもファンが多いと思う。

フォロン財団

フォロンの作品は、ニューヨークのメトロポリタン美術館からベニスのコレール美術館、またバルセロナのガウディ美術館やアンティーブ(フランス)のピカソ美術館など世界中を駆け巡り、いくつかの作品は美術館に買い上げられ常設のコレクションとなっている。

メジャー作品は手放さず手元に置く主義だった彼だが、晩年になりその膨大な量の作品をもれなく保護するため「フォロン財団」の創立を考えるようになった。フランスやイタリアからのオファーもあったが、彼の心に最も響いたのがベルギーのフランス語圏政府が提案した「ソルヴェー公園」内の農家だった。農家とは言え、ベルギー建築界の大御所クルイセナールが1833年に建てた立派な邸宅である。彼はここにフォロン美術館を開設することにした。

ソルヴェー邸

今は公園となっているこの敷地は、世界的に有名なベルギー人化学技術者、アーネスト・ソルヴェー(Ernest Solvay)の家族が暮らしていたところだった。ソルヴェーは弱冠23歳のとき炭酸ナトリウムの工業的製法を発明、「ソルヴェー法」の特許を取得した。彼はこの特許で得た膨大な利益を慈善事業に注ぎ、ブリュッセル自由大学内に「物理と化学の国際的研究所」、「社会学研究所」、「ソルヴェー・ビジネススクール」を設立した。その死後、庭園と城をそっくり政府に寄付したのである。

ブリュッセルから約20キロの近さにある220ヘクタールの敷地は、その豊かな緑や池、ソルヴェー城の周りに咲く何万本のシャクナゲの美しさでヨーロッパ屈指の公園の1つといわれている。奇しくもこの公園は、近くに住んでいたフォロン少年が週末ごとに両親と散歩で親しんだところであった。

科学者ソルヴェーと芸術家フォロンに共通していることは、自然を愛し、各々の道で成功したにもかかわらず謙虚で、人のために尽くした点である。ソルヴェーの生き方に共鳴したフォロンは、このドメインに美術館が作れることを心から喜んだことだろう。

癒しのアーティスト

フォロン美術館に入り、真っ先に目にしたのが「スフィンクス」と題する絵だった。地平線が薄いブルーになりかけた群青色の空を背景に、大きなスフィンクスと豆粒ほどに描かれた一人の男性が夜明けの空を見つめている。ブルーの濃淡のみで描かれた水彩画である。「永遠」とほんの瞬時を生きる「人」とが織りなす時の流れと雄大な自然。生きることの意味を考えながら、一緒にその夜明けを見ていた自分を発見。生まれて初めて絵が買いたい!と思ったほど、不思議に心が落ちつく「癒し」の絵だった。

美術館内にはフォロンの寄付による500点の作品が陳列されている。テーマや作品の種類ごとに分けられた館内は彼のデザインによるものだ。ここに一歩足を踏み入れた途端、そのポエティックでロマン溢れた“フォロン・ワールド”に誰もが心を奪われ、時の経つのを忘れることだろう。

楽しい旅への始まり

フォロンは云う。『僕の作品は僕が創り出したものではない。これは全て世界のみんなから貰ったものだから。自分で自分の作品が分からないこともあるので、見た人が各々自由に、好きなように理解するのが最良だと思う。僕が自分自身の夢をイメージに託したように、みんなが各々それぞれの夢を託してもらえることを希望するだけだ』

ということで、美術評論家でもない私の「スフィンクス」へのコメント、お許し頂きたい。
ところで、私が初めてフォロンに出会ったのが地下鉄の駅である。といっても本人ではなく、モンゴメリー駅へ通じるエスカレーターから眺める165m2の大壁画(Magic City)だ。連なる山波みの向こうにひときわ高いピラミッド型をした山がある。その山の頂上から虹色の七つの輪が大空いっぱいに広がっている。今でも広がり続けているような流動感と優しい色合い。フワフワ浮かぶ雲の何とのんびりしたことか。見る人々をいつも楽しい気分にさせてくれる幸せを運ぶ壁画である。エスカレーターを降りながら眼下に眺めるのが最高で、そのため何度往復したか分からない。

フォロン美術館やMarche-en-Famenne(マルシュ・アン・ファメン)にあるWaha(ワハ)教会のステンドグラスはいつでも鑑賞できるが、「フォロン2008」と題した大規模な展覧会が9月末までベルギー中で開催されているので、ベルギーを訪ねる方はお見逃しなく。

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