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ベルギーコラム

Vol.11 モダンなブルージュ発見

宮崎真紀

ベルギー在住、フードジャーナリスト及び衣食住に関するコーディネーター。食の世界の生活情報誌「ボナペティ」編集長。他に、国立料理学校でのフランス料理、フラワーアレンジ、ベルギーボビンレースの教室を主催する。

以前このコラムでブルージュのことを書き、15世紀で止まってしまったかのような古都の素晴らしさをお伝えしましたが、今回はこの街がもつモダンな面のご紹介です。

ミシュラン1つ星と洒落たB&B

ベルギー料理界で今まさに“鯉の滝昇り”のごとく上昇中といわれているのが、ブルージュのレストラン(Hertog Jan)のオーナーシェフ、ヒェート・ドマンジュレール氏(Gert De Mangeleer)30歳である。

ところで、ベルギーには才能豊かな若いシェフに贈る「昇りつつある星」という賞がある。これはベルギーの著名料理評論家たち10人がミシュラン並みに覆面審査で選ぶ賞で、まだ世間に知れていない才能を発掘し、ベルギーグルメの質を更に高めるのが目的である。対象はミシュランの星を取っていない35歳までのシェフとなっている。
2006年3月、この賞の「特別賞」を弱冠27歳のヒェートが獲得。一般の人にとっては彗星のごとく現れた感じだったが、ミシュランも上記の賞と争うように8ヶ月後の2007年版で1つ星を付けた。

モダンでなぜか禅的なレストラン

噂のレストランに行って来ました。ブルージュの街の中心から南方へ、車で10分ほど行ったところにあり、この辺りから閑静な住宅街となるらしく、店は鬱蒼とした木立を借景にする牧歌的でモダンな雰囲気の外観である。しかし店の前にずらりと停められた車が、ベンツやBMWなどの高級車ばかりなのに驚いた。我家の車では肩身が狭く、きっと遠くに駐車したと思うからタクシーで来て正解だった。

店内は陽光が差し込む広いキッチンと、白と黒のシンプルでモダンなダイニングと総ガラス張りのテラスからなっている。金曜日の晩ということもあってか、8時には既に80%の席が、そして9時過ぎる頃には満席になっていた。ソムリエ長兼メートル・ドテルのヨアキム(Joachim Boudens)は、モード誌から抜け出てきたような若いスリムな男性。モデル並みの甘いマスクでにこやかに迎えてくれた。車の件でなんとなく気後れしていた私の気分は単純にも一気にハイになる(苦笑)。

彼の料理のすごさは、しっかりとクラッシックを学んだものだけができる、既成にとらわれない縦横無尽の創作力だと思う。あわびや魚介類を生やマリネで提供し日本食を彷彿させるかと思えば、フォアグラにはライチーやバラのソース、また子羊にガーリックとレモン風味のタイムという具合だ。アプリコットやカルダモン、炒ったコーヒーの粉末やサフランオイルなど、ほんのミクロの量の配分にも係わらず、全てがかもし出すバランスの絶妙さに舌を巻く。締めくくりの自由で遊び心のあるデザートに狂喜した一晩であった。

 特筆すべきはインテリアからサービス皿や小物にいたるまで、そのシンプルさが墨絵的な世界なことだ。例えば荒削りの黒い石の食器や、白いテーブルクロスの端にさりげなく置かれた3個の黒い小石など、日本人の私にはどことなく竜安寺の庭を思い起こさせたりもする。

日本の侘びに憧れて

「食材のもつ自然の味を尊敬すると、おのずから料理はとてもシンプルになります。味を引き出すものをすこし足すだけで充分です。インテリアも同様だと思っています」。日本にはまだ行ったことはないが、近々是非行きたいとシェフはいう。その彼が紹介してくれたのが、自分と同じコンセプトの宿「B&B」(St.Jacobs Bed&Breakfast)である。

ここでも白と黒の静寂の世界

観光客であふれる街の中心の広場から繁華街と反対の方へ歩いて5~6分。運河を越えた普通の住宅地にこのB&Bはある。運河沿いを歩くと、小さな庭で椅子にペンキを塗っているお爺さんや、夕食後テラスで赤ちゃんをあやしている若い夫婦など、日常生活が垣間見られてなんだか楽しい。あまり観光客もうろついていないのも更に良い。

B&Bの看板が出ていないのでうっかり通り過ごしてしまった。普通の家のドアなので半信半疑にブザーを押してみた。広い玄関にはナポレオン王朝風の長いすが置いてあり、階段脇には額縁なしの大きな油絵が一枚かけてあるだけ。シンプル・イズ・ベストということか。19世紀の建物を改造したそうで、階段途中の踊り場には陽光を背に受けて輝く19世紀作の聖ヤコブのステンドグラスがある。B&Bはこの聖人の名にあやかって命名したとのこと。

オーナーはインテリアデザイナーとその家族で、客室はたった3部屋しかない。白を基調とした部屋のアクセントカラーは黒と焦げ茶のみ。スタイリッシュな白のソファーとランプシェード。白いサイドランプは行灯風である。壁には一枚の絵がかかり棚には数冊の本。バスルームも同様のコンセプトなのを見ると、これがヨーロッパ人の解釈する「禅」なのだろうか。雑然とした自分の寝室と違い、あまりにもスタイリッシュすぎて最初は緊張したが、旅先で違う雰囲気を味わえるのはいいことだし、ベットの寝心地は最高だった。

特に気に入ったのは朝食を取るダイニングルームとキッチンである。お洒落で暖かく、こんなキッチンが夢だったから。歴史がそのまま残っている古都を観光で満喫したら、新しさを感じさせる超モダンな宿に泊まるのも旅の面白さかもしれないと思ったりもした。

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