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ベルギーコラム

Vol.10 おだてられてラジオに出たが

宮崎真紀

ベルギー在住、フードジャーナリスト及び衣食住に関するコーディネーター。食の世界の生活情報誌「ボナペティ」編集長。他に、国立料理学校でのフランス料理、フラワーアレンジ、ベルギーボビンレースの教室を主催する。

現代人の健康志向と相まって、ヨーロッパは今日本食ブームである。ある朝ベルギー人料理評論家のオリビエから「RTBFラジオで、日本料理と食文化についての番組があるので、お前を推薦しておいたから」と電話があった。とんでもない!フランス料理ならまだしも、奥深い日本料理なんぞ知らないわよと抗議したが、あとはディレクターと相談しろといわれる。RTBFとは国営のテレビとラジオ局で、いわばベルギーのNHKである。しかもぶっつけ本番の1時間の生放送だ。ラジオなので顔が見えないのは良いが、日本語訛りのフランス語がバレバレである。恥ずかしいったらない。早速女性のディレクターに断りの電話をした。

悪夢

「訛りがあるほうが可愛いいわよ。完璧なフランス語じゃ、だれも貴女の言葉を信じないしね」と軽くいなされてしまった。そのうえ「フード・ジャーナリストが自国の料理を説明できないはずがない」といわれ返す言葉を失う。アナウンサーの女性とは旧知の仲だが、1時間もの間何をしゃべればいいのか・・・。1週間後といわれたが、無理やり1ヶ月後に延ばして、傾向と対策を練ることにした。

この番組は週末を除く毎日の放送で、テーマは政治・経済、美術と幅広くゲストもその道の専門家らしい。試しに番組を聴いてみることにした。ところが、10時半スタートの番組は10分過ぎても音楽が流れているだけである。時間を間違えたのかと思ったら「あ~っ、ただ今ミスター○○さんがスタジオにお見えになりました。○○さん交通渋滞はいかがでしたか?」と流れてきた。何のことはないゲストが遅れていたのだ。この辺りの対応が双方とも鷹揚というか日本人の感覚と違うところで、視聴者も寛大なのだろう。ゲストはイタリア人の水についての権威者だ。それほど恐縮する様子もなく、アフリカ大陸の水源汚染や環境についてイタリア語のアクセント丸だしでしゃべっている。

「そうか。あまりかたく考えなくてもいいのだ」と開き直り対策を練る。日本食について聞きたいのなら、和食のプロを引っ張り出せば鬼に金棒、そのうえ私の持ち時間も短くなる。これこそ一石二鳥の名案と我ながら感心する。そこで、フランス語を話す板長さん二人に白羽の矢を立てた。

放送当日

お二人とは放送開始一時間前に現地集合とした。しかし時間になっても現われない。あれ~?と思っていると、テレビ局の入り口が見つからないという電話だ。この大きな門や標識が目につかないはずがなく、いったいどこを走っているのだァ、と私のアドレナリンは上昇し始めた。駐車場探しで更に時間を取られ、3人は敷地案内図を片手に小走りにスタジオに向かう。似たようなビルが並ぶため、違う建物に入るというドジのおまけつきだったが、どうにか番組開始直前に滑り込めた。ヤレヤレ、あやうくあの遅刻したイタリア人の二の舞を演じるところだった。そして出された水を持ったままスタジオ入りとなる。

冷や汗もの

ちょっと小太りで輝く瞳がチャーミングなヴェロニックの甘い声に迎えられスタートした。「ベルギー料理がフリッツだけでないように、日本料理も寿司や刺身のみではないと思うが?」という質問に始まり、“基本の食材や調理法の特徴、シェフ達に人気の包丁について、和食は本当に健康食なのか、日本食文化を一言でいえば”など、ビシビシ質問を浴びせてくる。用意したアンチョコを見る暇もなければ、事前の質問状にないことばかりが飛び出してくる。

ヴェロニックの視線が向けられると、緊張のあまり頭の中が真っ白になった若い板さんが「今、何ていいました?」と放送中に私に日本語で尋ねてきたり、ベテラン板さんは質問への答えが違う方向に進みそうになり、私が途中で話を引取ったり、私は私で間違いだらけの文法でまくしたてるなど、まあひどい状態でワンラウンドを終わった。定時のニュースを別のアナウンサーが読み上げている間「楽しい雰囲気でとっても良かったわ。それじゃ、これからはリスナーからの質問よ」

「えぇっ!そんなこと聞いていないって」しかし、ヴェロニックの前のパソコンには既に質問が続々と届いている。言葉に詰まったのは、日本に住みはじめて2週間のベルギー人からの質問だった。「餃子やラーメン、肉まんなど美味しい日本食を発見したが、他にお勧めはありますか」。餃子って日本食?

反響

放送後、町角のチョコレート屋に立ち寄りあれこれと選んでいると、突然「貴女、もしかしたら少し前のラジオ番組に出ていなかった?」といわれてビックリ。話し方を聴いてピンときたそうだが、冷や汗ものだった。試食をたくさんさせてくれたのが、せめてもの役得というところか。

ベルギー人の友達にはもちろん伏せていたが、運転しながらとか、原稿を書いていたら貴女の声が聞こえてきた、などの声が多くこれにも赤面。察するに、この番組は平均的なベルギー人ならだれでも毎日聞くらしい。出演料もなく(もちろんあんなもので貰えないが)、やっぱり出なければ良かったと後悔する。だから、この話を持ってきたオリビエに文句をいうと「イヤ~なかなか良かったようで、ディレクターも満足していたよ。またな」ですって。

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